Jakarta Communication Club
ジャカルタコミュニケーションクラブ
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よもやまクラブ by Ibu KAIKIRI                           

 

日本語教師七転八倒物語
112回


2008年 5月&6月



著者:甲斐切清子
 



 

「ブリタジャカルタ」が隔月になった。いつも編集部の方に、「最後の最後、本気で締め切りっていうのは何日ですかっ」と、情けないお尋ねをしていた私は、これを聞いて一抹の寂しさを感じるとともに、「だがしかし、それはもしかして原稿を書く時間に余裕ができたということではないか!!」と、瞬間喜んだ。

しかし人間というものは、学習する動物ではあるが、性懲りもなく同じ過ちを繰り返す動物でもある。隔月号のおしらせをいただいたのは3月末だったはずなのに、ある日カレンダーを見たら、なぜかすでに5月の半ばに差し掛かっていた。私の口元から「あら?」という一言がこぼれた。首をちょいとかしげ、二本指を頬に添えた「どういうこと?」風な表情であっただろうと思う。だが、「この空白の2ヶ月はいったい??」などととぼけている場合ではなかった。締め切りはすでに3日後に迫っていた。

だが、ありがたいことにこの2ヶ月間、ネタには事欠かなかった。矢のように過ぎ去った時間が何よりの証しだが、この3月の終わりから5月初めにかけては、実にさまざまなことが降っては湧いた。その中から今回は、JCCに新しく入った新スタッフの話をしたいと思う。

 

勤務7年と3年の事務スタッフが、年初めに立て続けに退社することに伴って、JCCに新スタッフが4人入った。22歳が3名、20歳が1名。新しいスタッフが入ってくるときは、うれしさと同時に大変さが襲う。うれしさは言うまでもない。これまでにない新鮮な風が職場を満たすからだ。大変さは、もちろん教育・指導である。学校を卒業したばかりの、右も左もわからない子達にゼロから教えていかなければならない。これはもう、他の仕事などしていられなくなるほど忙しくなる。

すでに社会経験のある場合は、実はもっと大変であることもある。よそで培ってきたインドネシアンウェイを払拭させることから始めなければならないからだ。これが一筋縄ではいかない。仕事をしているときに友達同士でぺちゃくちゃしゃべる、仕事時間中に携帯メールに夢中になる、のんびり遅れて出社する、さっさと早めに帰宅する…、これら悪習になっていることを、根気よく正しつつ、でも、最初からがっくりしないように、やる気が持続するように調整しながら指導する。遅々として進まないときは、一年後に見事な成長を遂げた彼女たちを想像する。絵に描いた餅でもうきうきしてくる。

ありがたいことに今期の新スタッフ達は結構しっかりしている。最初から強気でマーケティングに挑んでくる子、おどろくほど気が利く子、注意されたことをすぐに直して見せる子。だが、そんな中にあれこれと奇妙な現象が見られるのも、新しいスタッフと過ごすおもしろさである。

 

先日、ジャカルタに赴任されたばかりの方がいらした。その方は、たまたま私の日本の友人の知り合いだったこともあって、にこやかに話が弾んでいた。そこに、新スタッフがコーヒーを運んできた。マニュアルどおりお盆にコーヒーを載せて、しずしずとやってくる。よしよし、と思ったそのとき、そのお盆の上にのっかっているコーヒーカップの後ろに小ぶりのコーヒーカップが見えた。「?」と私は思った。このような場合、私には飲み物は必要ないと言ってある。さては先輩スタッフたちめ、伝えてないな! と、思ったとたん、そのデミタスカップが2客あることに気付いた。私の理解は一瞬のうちに吹っ飛び、再び「??」。これはもう待つしかない。あのコーヒーカップ1客とデミタスカップ2客がこのテーブルに置かれるのを。

そして数秒後、全貌が明らかになった。お客様の目の前に差し出されたそのデミタスカップには、それぞれ砂糖とクリームが入っていたのだ。

砂糖とミルクの量は好みによってそれぞれ異なる。そこで、彼女は砂糖とミルクを別々にして出した。ここまでは上出来である。なぜならJCCのマニュアルでは、砂糖とミルク入りコーヒーを出すときには、ご本人の好みなど関係なしにJCCテイストで出すようにしていたからだ。よって、ここまで親切な対応をした彼女を心からほめてあげたい気持ちだった。だが、デミタスカップである。

デミタスカップに砂糖とクリーマ。それは、メキシコで遭遇した御飯茶碗にスープとか、インドで目撃した急須にビールとかに匹敵する意外性で視界に飛び込んできた。当然、お客様の目も点になっていた。言ってみれば私など、インドネシアに来て15年、毎日バーゲンセールのように降ってくる意外な出来事には慣れてしまっているので、一瞬「!?」と感じつつも、すぐに「まぁ、ありか」と納得してしまうようになっている。いちいち驚いていては万事が進まなくなってしまうからだ。

だが、毎回お客様の目を点にさせるわけにはいかないので、後日、砂糖とクリーマはデミタスカップではなく、小さなお皿に入れて出すよう指示を出した。しかし、指示を出したところで終わらないこともある。偶然だが、同じスタッフのエピソードである。

 

ある日、彼女がうれしそうに、「先生、私の母が作りました」とケーキを持ってきてくれた。カステラのようなスポンジケーキである。「あら、ま、ありがとう!」と受け取ったそのお皿の上のカステラの横には、ティースプーンが添えられていた。ティースプーンは、その名のとおり、ティーのためのスプーンである。スポンジケーキをスプーンで食べるのはけっこう難しい。で、私は言った。

「日本人にケーキを出すときには、小さいフォークでね」。

割に仕事のできる彼女は、間違いを犯すとすぐに顔に出る。いい仕事ができなかったことや失敗したことの悔しさが表情に出るのだ。「はい、先生。すみませんでした」と、神妙な顔つきで彼女は退室した。


 そしてその翌週。彼女がケーキのときと同じように、お盆にケーキ皿を載せて入ってきた。「先生、おいしいですよ」と差し出されたケーキ皿の上には、袋に入ったままのパンが鎮座し、しかもその脇にはフォークがいかにも礼儀正しいたたずまいで置かれていた。このときこそ、私の目は点になっていたと思う。それに比べ彼女の晴れ晴れしい顔。私の表情は、たぶん彼女にとっては、上手にできたことに驚いているように見えたことだろう。

彼女はきちんと学習していた。同じ過ちは繰り返さなかった。隔月号になっても締め切りにひいひい言っている私は、彼女を見習わねばなるまい。だがこのギャップと戦うには、インドネシアの多様さはあまりにも手ごわい。

  


 


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