Jakarta Communication Club
ジャカルタコミュニケーションクラブ
 Since 1997

よもやまクラブ by Ibu KAIKIRI                           

 

日本語教師七転八倒物語
110回


2008年 2月



著者:甲斐切清子
 



私の名前の上に、「ジャカルタコミュニケーションクラブ」とあるが、これを説明させていただくと、日本人がインドネシア語を、インドネシア人が日本語を勉強する語学学校である。同時に双方の文化を学ぶべく、バティックや和紙人形、インドネシア料理に日本料理などの文化講座も開講している。

それとなく営業活動をしてしまったが、先月号で登場したデシは、この「ジャカルタコミュニケションクラブ」の副校長。そして語学講座の教師でもある。あれだけ派手に書いたものだから、受講生の日本人の方からけっこう言葉をかけていただいたようで、「先生、私のことを書いたでしょ〜」と詰め寄られた。私は、「書きました〜! ついでに今月号もあなたのことを書きますよー」と答えておいた。

実は前回、「割れてる割り箸」のせいで、書きそびれた重大なエピソードがある。いや、これはエピソードとは言わないだろう。今回のお話は、デシの行動を基にお話しする、いわばみなさんへの問いかけである。

 

昨年の1130日、東京に着いた私とデシは、最初の九段会館の二泊以降は、寝起きをともにした。食事も、買い物も、2週間ほとんど一日中いっしょに過ごしたわけだ。そんな中で二人はそれぞれの癖や習慣を目の当たりにしていった。先生は歯を磨くとき必ず洗面台から離れてうろうろしながら磨くとか、デシは明かりを消しては寝られないとか、先生はテレビをうるさがるとか、デシは食べ物を買いだめしたがるとか…、ジャカルタでの日常ではわからなかったことが、明らかになっていく。

それらは個人の嗜好や生活習慣の問題だから、「あ〜、デシはそういう子だったの」とか、「へー、先生ってそうなんだ〜」とか、驚いたり感心したりあきれたりしていればいいのだが、譲れないこともある。

デシと過ごした2週間で、私が最もいらいらっとしたことは、彼女が人に訊くことを良しとしないことであった。日本で日本人に日本語で話しかけるのに、自信がないのでは? 間違えるのがこわいのでは?? 知らない人に尋ねるのが恥ずかしいのでは??? というみなさんの声が聞こえてきそうである。もちろん、それなら私は理解できる。だが、彼女は自分だけでなく、私にも「人に訊かないでくれ」と言うのである。

たとえば、「マツモトキヨシ」を探す。駅のホームから見えていたのに、歩いているうちに視界から消えてしまった。駅前の駐車場に警備員さんがいたので、「あの人に訊いてみよう」と言うと、「先生、いいよ、歩いて探そうよ」。

たとえば、「ビックカメラ」に入ってパソコンを探す。今回、デシがもっとも重要な買い物のひとつに考えていたのがノートパソコンで、「東芝ダイナブックのウィンドウズXPインストール済みのやつ。色は白」と、ここまで詳しく指定がある。だが、ビックカメラ・パソコン館には市場の野菜のようにノートパソコンが並べられている。なのに、彼女はその広大な売り場にずんずんと入っていくのだ。

私は彼女の背中に向かってこう言った。

「デシ、担当のお兄さんに訊いたほうが早いよ」。


すると彼女はこう言い放った。

「いい、いい、訊かないでいいから、先生」

それはあたかも規則を犯すかのような拒否反応。彼女は「訊かなくていい」と言うが、その様子はまるで「訊いちゃだめ!」てな感じなのだ。

 
なんで訊いちゃだめなの? と私は首をひねる。その不可解さにだんだんと眉間にしわが寄り、口がへの字に曲がってくる。

「あのさ、訊いたほうが早いじゃない? わからないところをうろうろ探すのって、無駄じゃない? 効率悪いじゃない? 疲れるじゃない???」

すると彼女は力強くこう言い返したのである。

「早くなくてもいい! うろうろ探すのって楽しい! 効率が悪くてもいい! ちっとも疲れない!!!」

ううむ、こしゃくな。だが、旅行と考えてみれば、確かに、あてもなくお店を見て回るのはそれなりに楽しいだろう。だが、限りある時間にいろいろなことをたくさん楽しむにはやはり、効率を優先させるべきではないか…。苦々しさを抑えながら別行動をとっていると、「先生、ありましたー!」という彼女の声。どれどれ…と行ってみると、確かに東芝ダイナブックがずらりと並んでいる。だが、そのずらりから、彼女の求める「ウィンドウズXPインストール済みのやつ。色は白」を探さねばならない。パソコンはてんで苦手な私とデシにとって、それはなかなか大変なことである。もちろん、色は見分けがつくが、この機種はどのぐらいの頭脳を持って、何ができるのか…などというのは、どこをどう見ればいいのかさっぱりわからない。

「これじゃわかんないよ〜、訊こうよ、お店のお兄さんにぃ〜」

そうつぶやく私に彼女は、

「いや、先生、ちょっと待って! ここに特別なシールが貼ってあるよ、これはインストール済みってことじゃない?」。


  そう言われてそのシールの文章を読んでも、そういう意味にはとれない。かといってどういう意味なのかもわからない。結局彼女の目を盗んで、お店のお兄さんを手招きで呼んだ。あ、も〜、先生ったら…というデシの目をよそに、「あのですね、ダイナブックのソフトインストール済みのものを探しているんですが」と尋ねると、はたしてお兄さんの答えは、「あ、インストール済みのものは通路をはさんだむこう側の棚です」だった。

日本語は苦手なふりをしているデシも、本当は日本語能力試験2級は合格しているわけだから、このお兄さんの日本語は完璧に理解できる。「ほぉーら、みなさい。先生の言ったとおりに、初めっから訊きゃいいのに」という私の強い視線を彼女は全身に浴びながらも、平静を装って、「あ、あっちですか、そうですか。どれどれ」て感じでお兄さんについて行く。うー、かわいくない、かわいくないぞ、デシーーー!!!

旅行中、こんなケースが幾度もあった。なぜ、彼女は人に訊きたがらないのだろうか。本当に、ウィンドウショッピングしながら探したいからなのだろうか。本当に日本語に自信がないからだろうか。

こんなことが続いていたある日、東京の友人がこの問題をすぱっと分析してくれた。

「そりゃ、年の違いよ」。え、年の違いって?

「若いときは、知らない人に接触するのは、ある程度恥じらいがあるけど、年をとるとそれがなくなるじゃない? 面の皮が厚くなるというか」。ドキ!

「それから、年をとると余分な行動は体力消耗につながるけど、若いときは無駄に動き回っても、少々のことではへたばんないでしょ」。なんという明快な解説。

だがしかし、この年寄りが、これまでの人生経験で得てきた、「人に尋ねることによって、より迅速に、より的確な情報を入手することの意義」、これはけして無視されるべきものではないと思う。

さて、みなさんはいかにお思いだろうか。というより、みなさんはこのような場合、あくまでも自分で探しますか、またはさっさと人に訊いちゃいますかぁ〜〜〜???     


 


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