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よもやまクラブ by Ibu KAIKIRI                           

 

日本語教師七転八倒物語
113回


2008年 7月&8月



著者:甲斐切清子
 

前号で、インドネシア人との感覚のギャップについて書いた。この感覚の違いには、おおいに戸惑う。「戸惑う」と書くと聞こえがいいが、はっきり言えばイライラする。小腹がたつほどではないしにても、ムムム…という感情が沸き起こってくる。お肉の食べすぎで好戦的になっているのだろうか。


 前回書いたのは、コーヒーに添えるミルクと砂糖の器について、そしてケーキおよびパンの出し方についてであった。だが言ってみればこれらは一過性のものであって、その場で注意すれば済む。一瞬驚き、困惑はするものの、きちんと教えれば解決することである。


 だが、そうはいかないものもたくさんあるのがここインドネシアだ。みなさん、家の中をぐるりと見渡してほしい。この国の家屋の設計がどんな基準でなされているのかわからないが、その感覚に首をかしげたくなるものがたくさんありはしないか。最初から建物自体に設置されているものは、悲しいかな直しようがないのである。

 
 
 たとえばコンセント。日本では、床から10センチから20センチぐらいにあるのが標準だが、インドネシアでは腰の高さにコンセントが埋め込まれていることが多々ある。しかも壁の真ん中あたりに、である。
 もしその家に腰高の棚があって、そのコンセントのある位置にちょうどその棚を置き、その上にテレビもしくはオーディオセットもしくは携帯充電器を置くのなら、とても便利だろう。
 だが、「フローリングにペッタンと座る生活が好き!」とか、「部屋を少しでも広く見せたい」という人たちは、高さのある家具を置かない傾向にあるから、そのコンセントは部屋の壁のどまんなかに、間の抜けたへそのように存在することになる。
 そして多くの場合、部屋にはコンセントはたった一箇所しかないのである。そのへそからコードが一筋、タラリンコと延びれば、その時点でその部屋のインテリアは終わりである。しかもこれがタコ足配線だったら…、もし壁が真っ白でコードが黒だったら…、これはもう悲惨のきわみだ。


 同じように、電気のスイッチの位置も微妙である。電気のスイッチは、日本人的感覚からするとドア枠から離れること10センチまでが限界ではないだろうか。
 だがここインドネシアでは、その距離30センチというケースが結構ある。実際、私の仕事部屋も、自宅の部屋も、ドア枠から30センチ向こうである。この距離の難儀さは2つある。ひとつはもちろん、スイッチに手を伸ばすときに余分な長さを必要とすること。
 もうひとつは、家具を置く際に、スペースの無駄につながってしまうことだ。
たとえばトイレのドアの脇に置くとピッタリはまるサイズの洋服ダンスがあるとする。だが、それを置くと、トイレのスイッチがそのタンスの陰にすっぽり隠れてしまう。このような場合、その洋服ダンスは実に非効率的な並べ方を強いられてしまうのである。


 次にお話しするのは、もっと大きいものである。私はこれにはほとほと手を焼いた。昨年、私は夢にまで見た夜景の美しい高層アパートに住み始めた。大家さんの趣味のおかげで、モダンな家具で統一されていて、小さいながらもシティライフを満喫できる素敵な部屋である。だがこの部屋の、最もメインとなるリビングの、もっとも目立つ中央の壁のど真ん中、上からも下からも右からも左からも、定規で測ったように真ん中のその位置に、インターホンが設置されているのである。ポツネンと、というよりはむしろ、堂々と、という感じである。

契約前に大家さんは言った。不都合があれば直しますから言ってくださいねと。なのに私は、下見のときにそれを見て、「変なところにインターホンがあるなぁ。ま、あとでつけかえればいいか」と思った。今となってはそれが悔やまれる。引越ししてからよく見てみると、そのインターホンは、壁にフックを取り付けてそこにちょいと掛けてあるのではなかった。壁に10センチぐらいの穴がくり抜かれており、そこには赤白黄色の電線がわんさと束になっているのだ。とても素人仕事で改善される状況ではない。

その壁面には、ダークグレーのオーディオラックが置かれており、そのラックはテレビやオーディオを置いても1メートルぐらいの高さしかない。だから、テレビの真上30センチぐらいのところで、件(くだん)のインターホンが無遠慮にその存在を主張することになる。
 通常ならばその上部の壁には、バリの絵や、かわいいネコの写真、黒檀のレリーフなどが飾られるはずなのに、その無粋なインターホンのせいでそれができない。アパート引っ越し祝いにわざわざ日本からやってきて部屋の飾りつけを楽しんだ姉も、このインターホンだけは「どうにもならん」とさじを投げて帰っていった。

邪魔だからといって、なにかの後ろに隠すわけにはいかないインターホンは、結局、インテリアに取り込むしかない、という結論に達し、左右対称になっているレゴンダンスの壁掛け人形に挟まれる格好で、その姿を堅持している。

 

電話以上に素人ではどうにも位置の変えられないものがもうひとつあった。シャワールームの排水口である。私のアパートの客用シャワールームでは、上から勢いよく落ちてくるシャワーを体にちょうど当てるように立つと、足が排水口をふさいでしまうのである。ということは、シャワーを気持ちよく浴びているうちに足元が大洪水になってしまうのである。

 私はよく「人間工学に則って」と講釈をたれる。効率よく気持ちよく動ける環境にうるさく、最近では口癖のようになっている。ちなみに人間工学とは、「物や環境を人が無理のない自然な動きや状態で使えるように設計する工学」、あるいは、「人の物理的な形状や動作、生理的な反応や変化、心理的な感情の変化などを研究して、実際のデザインに活かす学問」とある。それを考えると、インドネシアにはまだ人間工学という学問は存在しないように思われる。

 

そんな話をしていたら、日本語教師のR先生が、「せんせ〜、それなら私もこの間、遭遇しましたぁー」。話はこうである。

ある日、インターネットの高速回線を部屋に設置してもらうよう業者に頼んだ。毎度のことで担当者は2時間も遅刻してきた。そのせいで付き添っている時間がなくなり、その場を任せた。そして帰宅して部屋に入ったら、なんと机のほぼ中央にモジュラージャックが取り付けられていたという。「パソコンを置く場所にも困る状態なんですぅ〜〜〜」。R先生の部屋の、あの幅の狭い細長い机の中央にモジュラージャックがあったら、デスクスタンドやペン立てや本棚など、机上にあるすべてのものの配置に無理が出てこよう。だがまだいいではないか。それはペンチひとつで移動できるのだから。なんてったってスイッチや排水口はどうにも動かせないんだよぉ〜。                 


 


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