Jakarta Communication Club
ジャカルタコミュニケーションクラブ
 Since 1997

よもやまクラブ by Ibu KAIKIRI                           

 

日本語教師七転八倒物語
60回


2002年9月



著者:甲斐切清子

  

 また今年も上半期が終わった。七夕が終わればまもなくお盆。そろそろ帰国の航空券を予約して おかなければならない。先日も母から「何日に戻ってくる?」と電話があった。私の場合、お盆も年末も仕事の調整を つけて、ぎりぎりで航空券の準備に取りかかるので、なかなか予定が決まらない。「まだわからん」と答えると 「まあいつでもええけど、石鹸忘れんさんな」。これはどういうことかというと、うちの母は以前ジャカルタに来たとき 使った中国製の石鹸がえらく気に入っていて、私が帰国するたびにその石鹸を持ち帰らせるのだ。毎回、20個と いうのが母の注文である。重いし、匂いがコーヒーやたばこに移るので神経を使うのだが、これも親孝行だと思って 慣行している。

  ところで、石鹸を含めてインドネシアのフェイスケアやスキンケア製品で目立つのが、「美白効果」と うたっているものが多いことである。ここインドネシアは、一昔前の日本のように、色白イコール美人と考えられて いて、色白は自慢の一つになるようだ。そういえば人物描写をする時に、「ああ、あのちょっと黒い人でしょ」とか、 「私は彼女より少しは白いよね?」 とかいった表現をされて、この国の女性がいかに肌の色を意識しているかが うかがえる。この国の美人の神髄は、Hitam Manisという言葉にもあるように、健康的な茶褐色の肌だと思うのだが、 それは外国人だけが勝手に思っていることなのだろうか。   

  さて先日、夜の入浴をすませた私に、お手伝いのラトミが、いひひひ...という彼女独特の笑いを 浮かべながら近づいてきた。「先生、これ、色が白くなるクリーム。すっごく効くんだよ。使ってみな」
  そう言いながら彼女が私の手に載せたのは写真のフィルムケースだった。よく見ると中にクリーム状の ものが詰められている。私は一瞬眉間にしわを寄せた。なによりフィルムケース入りというのがいただけない。 想像するだけで瓶から指でべろんと取り出してもらってきたって感じがする。「どうしたの、これ」と聞くと、彼女は 鼻孔を広げて誇らしく言い放った。
  「買ったんだよ! パサール(市場)で。5万ルピア!!」
  5万ル…、5万ルピ…? 5万ルピアアアア〜〜〜! えええええっっっーーーーーーーー!!
  私は彼女の顔を凝視した。たしか彼女のお給料は食費込みで30万ルピア。その6分の1を フィルムケース入り(こだわる)のクリームに費やしたというのである。私は恥ずかしながら、ニベアのモイスチャー クリーム1万5千ルピアを手にとって買うか買うまいか迷うことがある。私のお給料はラトミのそれより多いのに…。 それに、ニベアモイスチャークリームは200g入りだが、フィルムケースなんて入ってもせいぜい50gぐらいなのでは なかろうか。見たところ、毎日つけていれば1ヶ月ももちそうにない量である。それに5万ルピアも出したとは!

  そういえば、以前から感じていたことだが、ここの人達の金銭感覚には時折ついていけないことがある。 たとえば、今現在、うちの学校では常勤スタッフ15人中13人が携帯電話を所有しているが、一番安物を持っている のは私である。2年前に買った、当時「100万人のNOKIA5110」とうたわれたほど誰でも持っていた庶民的な タイプで、今ではとっくに市場(しじょう)から姿を消している、大きくて重い無骨な感じの、どう見たってテレビの リモコンにしか見えないヤツだ。かたやインドネシア人スタッフは軽くておしゃれなのにどんどん買い換えている。
  数ヶ月前、日本人のW先生が新しい携帯電話を買って、うれしさのあまりみんなに見せていた。そうして いるうちに、インドネシア人のD先生に、「なんでこんなの買っちゃったのぉ〜」と、あざけりのこもった声で言われた らしい。「だってこれ、新しいタイプだよ」と言い返すと、「古い古い、これ、もう2シーズンも前のヤツ。安かったでしょ」。 プライドをいたく傷つけられながらもW先生はひるまず、「ん〜、120万ぐらいだったかな」と言った。すると、 D教師はにんまり笑って一言、「やっぱりね。私のは200万ルピアだもん。見る?」
  最近、巷で5000ルピアショップ(全商品が5000ルピア。言ってみれば日本の百円ショップですね)というのが 増えているが、先日うちの日本人のS先生が、その5000ルピアショップでで、20分も考えて買ったピンクのビーチ サンダルをラトミに、「安いでしょ、かわいいでしょ」と見せたところ、「アタシも今日ビーチサンダルを買ってきた」と、 3万の値札のついた作りの、立派なサンダルを見せられた。K先生、ちょっと照れくさそうに苦笑。
  履物といえば、こんなこともあった。日本人のN先生が、「パサールバルーの露店でどっちも2万で買った〜」 と2足の靴をみんなに見せているその脇で、受付のC嬢が、「ついに買っちゃったー、リーボックのシューズ!  40万ルピア!!」と、小躍り。うちの学校では、日本人とインドネシア人は、貧と富、倹約と浪費、小心と太っ腹と いう形に、はっきり分かれていると言える。 

  それを裏打ちするもうひとつの話がある。ある日、経理担当のS嬢が、給料日にはまだ遠いのに 困った顔をしてこう言う。「先生、もうお金がなくなっちゃったー、どうしよー」
  彼女の自宅は買い物天国…じゃなくて買い物地獄のマンガドゥアの近くなので週末になるとマンガドゥアに ふらふらと出かけて行くという。「だって、マンガドゥアにいくと普通は2〜30万は使っちゃうもん、軽く」
  計画的に使わなきゃ、貯金もできないでしょ、とたしなめると、「私って、買いたいものは我慢できないんだ〜 。アッ、ほしい! と思ったらもうそれを持ってレジに立ってる」    そういえば彼女と買い物に行くと値段を見て躊躇するといったことがない。(品物を手に)とる、(値札をチラッと) 見る、(レジに)向かう、という一連の行動を、ワン、ツー、スリーというか、ホップ、ステップ、ジャンプって感じで行なう。 みごとである。それに比べると1万5千ルピアのニベアモイスチャークリームに躊躇する私は、彼女に上司として けして尊敬はされないだろう。だが最近、そんな私に頼もしい仲間ができた。 

  友人のKさんは、ジャカルタへ来て半年。とにかく、「庶民の、庶民による、庶民のための場所」に 出入りすることが大好きで、市場も屋台もバスもバジャイもおまかせって人である。そのKさんが先日、前出の 悪名高き買い物地獄マンガドゥアへ御主人と一緒に出かけたという。足はもちろんバスである。朝10時に出かけ、 3時まで、「楽しかった〜」というKさんに、「で、何を買ったの?」と聞くと、彼女はけろりとして言った。「CD1枚」。 マンガドゥアのCDだから、言うまでもなく海賊版で、1枚1万ルピアである。
  日本人夫婦が、片道3000ルピアのエアコン付きバスで1時間かけて行き、あの物欲渦巻くアリ地獄の ごときマンガドゥアでCD1枚しか買ってこなかったことは、驚くべきことなのか、あきれるべきことなのか、はたまた 賞賛に値すべきことなのか。とにかく私はそれを聞いたとき、深く感動した。たぶん、昼食もマンガドゥアの中に軒を 連ねる中華系ワルンで麺をすすったのであろうから、その日の二人の支出は、バス代往復6000ルピアX2、 飲み物込み昼食代1万ルピアX2、CD1万ルピア1枚というわけで、しめて4万2千ルピアの勘定になる(他人の 家計をそこまで計算しなくても…)。なんとつつましく美しい夫婦の姿であろうか。ちなみに彼女の携帯電話も 「100万人のNOKIA5110」である。

  そういえば、インドネシア人に日本人の印象を聞くと、「ケチ」と答える人も多い。だが私たちは、 四季のある国に生まれ育ったのだ! 冬の心配をしなければならないのだ! 果物が熟して落ちてくるのを 待っていればいい国とは生き方が違うのだ! 
  がんばれ、ニッポン!! 宵越しの金を持たないインドネシア人なんかに流されないぞぉ〜!!!

 
Jakarta Communication Club

JCC1- Jl.Cipaku2 No.27 Kebayoran Baru Jakarta Selatan 12170 INDONESIA
(TEL) 7203966/72791829 (FAX) 7203966

JCC2 - Jl.Cipaku2 No.4 Kebayoran Baru Jakarta Selatan 12170 INDONESIA
(TEL) 7257266/7250530 (FAX) 7257266


http://jccindonesia.com