Jakarta Communication Club
ジャカルタコミュニケーションクラブ
 Since 1997

よもやまクラブ by Ibu KAIKIRI                           

 

日本語教師七転八倒物語
80回


2004年10月



著者:甲斐切清子

  

 突然、学校車を買い換えることになった。だが、そういう流れになるときは、必ずなにか要因が あるものだ。うちの96年製ダイハツ・エスパスの場合、今年の年度がわりあたりから、次から次へと襲ってきた 故障がその要因に当たる。故障がもたらす心労は大きく分けて2つある。ひとつは足がなくなること。でも、これは タクシーやバスを使えばいい。問題はもうひとつ、修理にかかる費用である。ここインドネシアでは、自動車保険と いうシステムがどうなっているか私はよく知らないが、やれACが壊れただの、やれドアが開かなくなっただの、 やれ水が漏ってきただのと、こっちを直せばあっち、あっちを直せばそっちと、毎週のようにベンケル通い。 その額は毎回、数十万ルピアである。

   そんなことが続いていたある日、運転手のサムちゃんが、「先生、エンジンに不備が見つかって ベンケルに見てもらったら100万ルピアかかるそうです」という恐ろしい事実を朝から報告してくれた。先週末に 50万ルピアかけてほかの部分を直したばかりなのに、100万ルピア! ひぇぇぇ〜〜〜、ひゃくまんるぴあーーー!!!
   余談だがうちの運転手さんは、2年ぐらい前までは車の調子がよくないときにはすぐに、「先生、そろそろ 車を買い換えたほうがいいですよ」と言ってくれていた。でも私が、「息の根が止まるまで」という姿勢を頑として 崩さないので、最近は買い換え最善策案を自ら口にすることはなくなっていた。
   しかし、サムちゃんが、「そろそろ」といったときからすでに2年たっている。「そろそろ」はすっかり 熟しているはずだ。買い換えどきかもしれない。

  「ひぇぇぇ〜〜〜、ひゃくまんるぴあーーー!!!」  
  「そう、先生、100万ルピア。先週も50万ルピアつかいました」  
  「ひぇぇぇ〜〜〜、あわせて150万ルピアーーー!!!」  
  「5月ぐらいから、もう10回ぐらいベンケルに行きました」  
  「ひぇぇぇ〜〜〜、たぶん500万ルピアぐらいーーー!!!」

   サムちゃんは待っていた。買い換えどきを唱えたいのはやまやまだが、じっと我慢して私から言い出すの を待っていたのだ。
  「そんなに修理にかかるようじゃ…」、「はい、先生」、「お金捨てるばっかりだし」、「ええ、先生」、 「今回直したって、明日また調子が悪くならないとも限らないし」、「ごもっともです、先生」、「うーむ」、「うーむ」とか なんとか、二人のつぶやきがしばらく続いたあと、ついに私は発した。
  「買い換えるしかないか…」
   その瞬間である。サムちゃんが機関銃のようにしゃべり始めたのである。
  「ハイ、先生、そりゃもう買い換えるしかありません。このままだったらお金も時間も無駄です。次は絶対 キジャンです。キジャンは運転しやすいしエンジンも丈夫だし、今だったらキジャンはいろいろ装備した新車で 170juta(Rp.170,000,000)、装備なしでいいんだったら150jutaぐらい。中古だったら120jutaぐらいであります、ハイ。 それに、キジャンのワングレート下の車種が出たばかりでAVANZAというんですが、それだったら新車値段で 100juta切ります。そうそう、このエスパスですが、ずいぶん前から学校前のワルンのオヤジが30jutaで買い取りたい と言っていますが、どうでしょう」

   はーーー??? どうでしょうって、まー、サムちゃんたら、なんかすごい壮大な意見をあたためていたん じゃないの。なに? 学校前のワルンのオヤジがこのエスパスを30jutaで買いたがってるって? ずいぶん前から 言ってたって、なによ、そいじゃずいぶん前から私のあずかり知らぬところでそういう密談が交わされてたってこと?
   ちょいとすっきりしないものを胸に感じ、なにか一言もの申したかったが、このニュアンスは私の つたないインドネシア語では伝わりきれないだろうとあきらめ、新車購入の前進的な話しへと進んでいった。

   まず、私がどうこうする前に狂喜のあまり饒舌なレポーターと化したサムちゃんによって、「機は熟した!  JCCついに車買い換え!!」の号外がスタッフの中にあっという間に流れた。するとみんな喜びながらも口々に、 「まー、やっとこさって感じだよね」「まったく相当なボロだったもん」「うん、あんなポンコツ、町でもなかなか 見なかったよ」と強烈なことを言ってくれる。そうか、これまで学校車に関する意見交換の場がなかったから わからなかったが、みんなそんなにオンボロだと思っていたのか…。
   私は、身内びいきか我が子かわいさか、エスパスはそれほど悪くはなかったと思っていた。それで、 同意してくれる人を求めて、いよいよ経理担当の学校の事務局長に話をした。
   「あのぉ、お金のかかる話で申し訳ないんだけど…、車なんだけどね、こう修理が続くんじゃ、もう買い 換えたほうがいいかなって。サムちゃんもそのほうがいいって言うし…、みんなもね、ボロだのポンコツだのひどいん だよね…。私はさ、もうちょっとイケルとは思ってたんだけど…どうだろう、どう思う?」
   すると彼女は苦笑いをしながらこう言ったのである。
  「うん、先生、そのほうがいいよ。買い換えたほうがいい。あのエスパスはもうとっくに耐久年数を過ぎてるよ」
   は? 彼女の意外な言葉に、私は一瞬我が耳を疑った。…ってことはサムちゃんと同じように、昔から 買い換え最善策案を抱いていたわけ??
  「実はそう思ってた、先生。でも、先生が買おうって言わないから、言い出すのを今か今かと待っていた」
   ががががーん。私と同じように節約家で、だからこそこれまで二人で石橋を叩いてやってきたという、 堅実な彼女の言葉とは思えない。車って動けば立派と思っていたのは私だけってこと?

   私はひたすら同類の輩(やから)が欲しかった。私と同じように、「このエスパスはけっこう悪くない」と 感じてくれる人が。そこで私は一人の友人に白羽の矢を立てた。99%の日本人が自家用車で生活する ジャカルタで、私と同じようにバス通勤をしていた友人S。彼は今でも住まいはkos(下宿)で、食事も屋台という 堅実な生活をしている。いわゆる、ぜいたくをしない・できない・することないのルピア生活者。その彼に話した。 そうすると彼は、独特な開放感あふれる笑い声をあげながら言ったのである。
   「いや〜、オレも思ってたっすよ」 ボロって? 「はい、ボロって」 ずーっと前から? 「ええ! ずーっと 前から」
   ががががーんのがーん。要は私は、大丈夫と感じる基準が、自分だけあまりに低いことを認めたく なかったのである。それはそのまま、私はとても「安い女」という証明になるからだ。でもやはり、このエスパスは 私以外、誰の目から見てもオンボロであるらしかった。ショック。私は日本から来た友人知人たちを大いばりで その車に乗せ、ジャカルタ巡りをしていた。さぞかし、「こいつ辛抱してるなぁ、苦労が多いんだろうなぁ」と思われて いたことだろう。

   というわけで、世間に押される格好で「JCC車買い換えプロジェクト・第一部」の幕が上がった。
   さっそくホットニュースを耳にしたスタッフのみんなが、絶対キジャンだの、色は赤がいいだの、ニュー モデルが出るからそれまで待てだの、勝手なことを言っているうちに、事務局長のヘルリナさんが、知り合いの ベンケルからとてもいい物件を見つけてきてくれた。2004年1月製キジャン。中古だが走行距離もわずかの 超掘り出しもの新古車。聞けば色も私の大好きな薄茶がかったシルバーというではないか。その間に立った仲介 業者が、エスパスも高値で買い取ってくれると言う。よし! ワルンのオヤジさんには悪いが、それで決めよう!!  私は決心した。物事とはいざとなったら、なんととんとん拍子に進むものであろうか。

   だが、人生とはまさしく一筋縄ではいかなくできているものだ。明日は新車が届いてエスパスともお別れと いう日の晩、神様からとんでもないことが試練としてくだった。エスパスが事故ったのである。

 
Jakarta Communication Club

JCC1- Jl.Cipaku2 No.27 Kebayoran Baru Jakarta Selatan 12170 INDONESIA
(TEL) 7203966/72791829 (FAX) 7203966

JCC2 - Jl.Cipaku2 No.4 Kebayoran Baru Jakarta Selatan 12170 INDONESIA
(TEL) 7257266/7250530 (FAX) 7257266


http://jccindonesia.com