Jakarta Communication Club
ジャカルタコミュニケーションクラブ
 Since 1997

よもやまクラブ by Ibu KAIKIRI                           

 

日本語教師七転八倒物語
82回


2005年1月



著者:甲斐切清子

  

 みなさま、新年あけましておめでとうございます。1996年にスタートしたこのコーナーも、はや10年目 を迎えることになりました。これもひとえに皆様方のご愛顧のおかげと感謝しております。これからも飽きずに おつきあいいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
  さて、このコーナーが10年目を迎えたと書いたところで、私のジャカルタ生活が13年となったことに 気付いた。おまけに今年は酉年、私は年女である。ジャカルタで二度目の干支を迎えることになる。この13年間、 本当に多種のジャンルに渡っていろんなことがあったが、つい2ヶ月ほど前、私はもう二度とこんな思いはしたくない というひどい目に遭った。記念に、「ブリタジャカルタ」に書き残しておくことにする。

  事件は昨年の11月14日に起こった。この日は、インドネシア人にとって最も大切な日であるレバラン当日 であった。我が校も14日から21日まで一週間のレバラン休みに入り、私は友人とオーストラリアのパースに行く ために空港に向かった。レバラン初日のスカルノハッタ空港は、ゴールデンウィーク初日の成田空港と同じくにぎ やかだったが、そのにぎやかさは、成田の場合華やかなのだが、スカルノハッタの場合は騒然である。
  私は、自分のチェックインすべきカウンターに向かった。カウンターはガラガラだった。というより、たったひとりの受付中の 人以外に並んでいる人がいない。今チェックインしているのは、どうやら団体旅行を引率している添乗員のようで、 数十部のパスポートを持っている。わ! 大変そう。でもまぁ、並んでいる人もいないし、次は自分だから多少 待ってもいいや、2時間前だから充分時間はあるしと、余裕であった。
  しかし、その団体ツアーのチェックインの 時間のかかることといったらまぁ、待っても待ってもぜんぜん終わらない。しまいにはその添乗員が、私に向かって 「Maaf」と謝り始める始末。そして30分が経った。まだ終わりそうにない気配に、「他のチェックインカウンターは ないの?」と空港職員に訊くと、デンパサールトランジットの海外便のチェックインはここだけ、と言う。仕方ないと、 またまた待つこと20分。ちょっとぉぉぉー、もうあと1時間10分しかないよぉー!! と、さすがにあせってきた ころに、やっと団体さんのチェックインが終わった。「やっとだね〜」と友人と苦笑いをしながら、カウンターにチケット を差し出した。

  「デンパサール経由のパースね」とニッコリ言うと、チェックインの係は、「OK!」と受け取ってくれた。 ほっと胸をなでおろす。やっぱりこのカウンターでよかったんだ。なにしろ日本から来た友人を連れてのパース 行きである。その友人を不安にさせるようなことはしてはならない。景色を見るのが好きな友人のために、 「窓側の席、お願いします」のリクエストも忘れない。係員はパソコンのキーボードをカシャカシャ叩いている。 ちょっと長い。なんでだろうと思い、「窓側がなかったら、通路側でもいいですよ」と言う。係員はうむうむ言いながら キーボードを叩いている。「あと1時間だから急いでね?」と笑って言ってみる。ついでに、「あ、これ、空港使用料 二人分??」なんて、さりげなく早くすましてほしい気持ちを伝える。
  すると突然、キーボードを打っていた係員が顔を 上げ、こう言い放ったのである。

  「イブ。イブとお友達の名前は見当たりません。これ、予約入ってないですね」
  「……!?」

  言葉はともかく、顔が一瞬凍りついた。だがすぐに、それは単なるパソコンの操作まちがいによるケアレス ミスであろうと楽観的に考え、改めてしっかり調べてくれることを主張した。だが係員は、「とにかくこの2人の名前は いくら捜してもないから、どうにもできません。満席だし」とにべもない。私は、冷静に事態を受けとめねばなら なかった。すでに1時間も立ち続けている疲れもあって足元がフラフラっとし、その場に崩れそうになった。
  だがふと見ると、インドネシア語は「テリマカシ」しか知らない友人が、横でニコニコ笑っている。しかも、搭乗券を 渡してくれるであろう(と彼女は思っている)係員に、なにも知らず愛想をふりまいている。そうだ、私とこの友人は 絶対、本日、この便に乗ってパースに着かなければならないのだ。なぜなら、明日の夜ひとりと明後日の朝ひとり、 東京からやってくる友人とパースで落ち合うことになっている。次に、今晩から7泊分のホテルを予約し、すでに 支払い済みである。キャンセルなんてもったいなくてできない。当然、レバランなので今から他のフライトなんか絶対 取れない。それに、静まり返ったジャカルタで友人と二人なにをして過ごせというのか。

  ぼう然とする私に係員が、「ここではなにもできないから、あそこのG航空会社の事務所に行って掛け合って みれば」と言ってきた。それを聞いて私は一瞬頭がくらっとなった。事務所に掛け合えって? あと1時間しかないん だよ! 効率なんかちっとも考えないインドネシア人に、このクレームを理解し、改めて発券し、搭乗手続きをすると いう一連のプロセスを、たった1時間で完結させることなどできるわけがないではないかっ! と心で叫びながらも、 横を見るとニコニコ笑っている友人が。そうだ、私は彼女をなんとしてでもパースへ連れて行かねばならないのだと、 萎える気持ちを奮い立たせ、係員が指し示した方向を見る。だが、それを見てまたしても私はくらっとなった。事務所 の入り口から人が溢れているのである。「あれは全部クレームの人たち?」と短く尋ねる私に、カウンターの係員は、 「そう。今日の便はダブルブッキングが多くて、乗れない人がいっぱいいるんだよね」と、おそろしい事実を語って くれた。失神しなかったのが不思議なくらいだ。

  私の頭の中には、すでに「絶望」という文字しかなかった。今回の旅行は、5月に予定を立て、8月ごろから 具体的な話になって、ひとりは東京からの便が取れなくて往生したし、もうひとりはやっとのことで会社の休暇を 取ったんだっけ。でも最終的には全部整って、「あさってにはみんなでオーストラリアワインで乾杯でーす!」 なんてメールを送って出てきたのに。言い出しっぺで予約係で引率者の私が行けないなんて、信頼ガタ落ちだよね…。
  だが、頭をよぎる最悪の予想を振り払いながら、私は一縷の望みをかけて走った。そして間口一間、 奥行き二間ほどの小さな事務所で、塊となっているクレーマーの人々の中にずいっと入り、「あの! あと1時間で 飛行機出ちゃうんですけど!」と叫んだ。窓口の人が、「ちょっと待って」と言ってはくれたが、なんだかちっとも諸問 題が解決しているようには見えない。「えーっと、バパは夜の便に取り換えたいだっけ?」だの、「荷物はねぇ、 あっちのカウンターで出してね」だの、「ん〜イブ、この便もう出ちゃったよ。飛行機に乗る時には2時間前には 来なきゃ」だの、自己中心の権化になっている私にしてみれば、そんなの後回しにしてこっちを先にやって、 ということばかり対応している。しかも次々に割りこんで来る人たちで順番なんかありゃしない。私は再びずいと 進み出た。「あのお!! あと50分で、ひこうき、でちゃうんですけどっ!」
  やっと、ことの重要性に気付いてくれたらしい女性係員がこちらを見てくれた。チャンスとばかりに、その 女性にかくかくしかじかで困っております、つきましてはなんとかしていただきたいと泣きついた。するとその女性は、 私のチケットをすぐにパソコンで確認してくれた…ところまではよかったが、「この予約は消されてるね〜。 満席だね〜。どうにもね〜」と思わせぶりな態度。「お願いしますぅ〜」と懇願する私に、彼女は「なんとかしてあげる こともできないことはないけどね〜」と、ますますの思わせぶりな態度。そこで、ジャカルタ在住13年の 日本語教師はふと気付き、以前はとてもいやだった習慣にならい、ある行為を行ない、なんとか2席無事に 用意してもらったのだった。

  そして、フィシカルを払ったりパスポートコントロールを通ったりして、這々の体で出発15分前に搭乗 待合室にたどりついた私を待っていたのは、係員の「ディレイト、ヤー(飛行機遅れてんのよ)」のひとこと。はぁ〜?  もぉー、あせって損したー! と思いつつ、どのくらい遅れるのと訊くと、「飛行機がまだ到着してないから、いつに なるかわからない」。なんなのそれ〜! と笑いそうになったそのとき、私は重大なことに気付き愕然とした。 今回のフライトでは、デンパサールでのパース便乗換え時間は1時間半しかないのである。
さー、はたして私と友人は無事パースに着けるのでしょうか〜!?


―つづく

                         ご感想をお寄せください

 
Jakarta Communication Club

JCC1- Jl.Cipaku2 No.27 Kebayoran Baru Jakarta Selatan 12170 INDONESIA
(TEL) 7203966/72791829 (FAX) 7203966

JCC2 - Jl.Cipaku2 No.4 Kebayoran Baru Jakarta Selatan 12170 INDONESIA
(TEL) 7257266/7250530 (FAX) 7257266


http://jccindonesia.com