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ジャカルタコミュニケーションクラブ
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よもやまクラブ by Ibu KAIKIRI                           

 

日本語教師七転八倒物語
92回


2005年 12月



著者:甲斐切清子

  

若さと美容と健康のために、フィットネス通いを始めた。私はこれまでの人生の中で、フィットネスセンターなるものの会員になった経験が2回ほどある。最初は東京の中野であった。世はバブルの絶頂期で、世の中の大半の人々が、すべてのものに手が届くと信じていた頃である。私も例外ではなく、不相応にも一年ン十万円もするフィットネスセンターに、通うこと自体が気分を高揚させるひとつの方法だと信じて入会。だが、運動嫌いである事実をすっかり忘れていた自分に気付くまで、けして長い時間はかからなかった。はじめの数ヶ月は、それなりにまじめに通った。だが、3ヶ月経った頃には、早くもバスに乗って通うことに疲れ、気がついたら1ヶ月に1、2度しか行かなくなっていた。結局、1年間で足を運んだのは40回ぐらいで、1回あたり1万円以上の受講料になっていたことに気付き愕然、二度とフィットネスセンターに入会などすまいと決心したのであった。

  それから10年後、私はインドネシアのジャカルタにやってきた。日本語教師として大いなる希望と夢をもって赴任した学校のその隣が、なんとフィットネスセンターだった。ぬぬ、隣がフィットネスセンター、ということは、フィットネスセンターが隣ということではないか、あたりまえだけど。以前、フィットネスセンター通いが続かなかったのは、バスを使って通うのが面倒だったから。でも今回は違う。バスも自転車もいらない、歩いて10秒。これはもしかして神様の思し召しかも…と思う私は、やはり自分の運動嫌いを忘れているのだった。そのとき運が良かったのは、3ヶ月単位で支払いができたことだ。はたして私は半年でそこをやめた。理由は、サウナがひとつしかなかったからだ。動かずにじっと座って汗をかいているだけでやせられると信じられていたサウナは、私にとってフィットネスセンターの必須ファシリティ。それがひとつしかないということはどういうことかというと、男女で1時間ずつ交代で使うということなのである。だから、「私は今、サウナ気分!」と思っても、サウナのドアに「ただいま男性タイム」という札がぶら下げられていると、心底ガックリ。また、女性タイムでも終り近くに入ると、ひょいと男性がのぞいて、「いいかな、いっしょに入っても」などと言う。ぴちぴちはじけるような体(今より10歳は若かったので)を、夫でも恋人でもない男性の前にさらすなんて、大和なでしこがするわけないでしょー! …と一瞬抵抗はしたものの、ひょいとのぞいたのが甘いマスクのかわいらしい男の子だったりすると、わけもなく私はえへらえへらとし、「えーよ、えーよ、入りんさい」などと広島弁風イントネーションのインドネシア語で、許可してしまったりするのであった。

  だが、それも長くは続かなかった。そうこうするうちに、工事のためにサウナが使えなくなったのだ。ひとつというのはあまりに不便というクレームが利用者から多数寄せられたのであろうか。もしかしたら、「脂肪ぶよぶよの、言葉の通じないおばさんと肩を並べて汗を流すのはいやだ」という文句なんかも出たのかもしれない。そんなわけで、サウナのないフィットネスセンターなんて、まったく行く価値なしと、3ヶ月を二期通った6ヶ月の時点で見限った。もちろん、サウナはそのあと増設され、男女それぞれにひとつずつできあがったのだろうが、そのころには私の勤めていた学校自体が引っ越してしまったので、物理的にもそこのフィットネスセンターとは、縁が切れてしまったわけである。

  そして10年。私のフィットネス熱は10年の一度の割で訪れるらしく、今年2005年のはじめに努力目標のひとつとして掲げた「運動」になかなか着手できない私に、神様はその優しい手をさしのべてくださった。自宅から車で5分のところに、フィットネスセンターの入ったホテルがオープンしたのだ!!
  高級アパートメント暮らしの方々は、エレベーターを降りさえすればいつでも気軽にフィットネスできる環境でいらっしゃるだろうが、私のような薄給日本語教師は、平民地区の一軒家に猫を相手にひっそりと住んでおり、運動といえば、1ブロックにひとつある小ぶりな公園で、インドネシア人のシルバーエイジのみなさん方が週に2回、朝行なっているラジオ体操に1,000ルピア払って参加するぐらいしか、生活の中に運動らしい運動は存在しない。
  そんな私のテリトリー内に、フィットネスセンターが突如現れたのである。なんてったって薄給の日本語教師が入会を考えることができるぐらい、会費が安い! それに、6ヶ月契約の場合、1ヶ月サービス期間がついて7ヶ月利用可能、しかもソフトオープニング中は会費が25%割引。そのうえ、会員は友人を一人連れてきてもいいという。もちろんタダ! うひょ〜!! テケテンテンテンテン!!!(←うれしくて踊っている) 安いとかタダとかに瞬時に反応してしまう私が、このチャンスを見逃すわけがない。もちろん例のごとく、運動嫌いという事実は、記憶機能からすっかり姿を消している。

  そして私は晴れて、「ホテル内にあるフィットネスセンターの会員」という、日本だったらプラチナゴールド的雰囲気を漂わせた…と思っているのは自分だけだが…メンバーになった。だが、ここで私は困った現象に見舞われた。フィットネスセンター内のことが、なにかにつけて気になるのである。不充分な設備、不適切な対応、けしからん態度、守られていないルールなど、すべてが気になってしかたないのである。これが地方のローカルな運動施設だったらまったく気にはならないだろう。だが、ここは首都ジャカルタの、3つか4つか、とにかく星のついているホテルなのである。そして高い会費も取っているのである(←安いと言ったことはコロリと忘れている)。利用客は苦情・文句・クレームの類いを言う権利があるのだ。たとえば…
@ 客が少ないからといって、スタッフが束になってフィットネスルームのテレビを見ているのはいかがなものか。
A スタッフが客用の着替え室の椅子に腰掛けて携帯で長話をしているのはいかがなものか。
B 朝っぱらから、ティッシュやトイレットペーパーが切れているのはいかがなものか。
C オープンして1ヶ月も経たないのに、ロッカー扉の取っ手が壊れて、しかも修理もしないでいるのはいかがなものか。
D 壁時計があるのは受付ロビーだけで、エクササイズルームにもフィットネスフロアにもないのはいかがなものか。
E サウナルームがいつも準備されていなくて、ひと声かけなくては熱くしてもらえないのはいかがなものか。
F サウナルームに謎のサンダルが1週間置きっぱなしなのはいかがなものか…というより、なんで?
  …とまぁ、流行りの政治家風に気取って語ってみたが、とにかく、以上のようなことが次から次へと目についてしまう。

  たしかにこれは私の職業病であるとも言えよう。学校でスタッフに、「トイレットペーパーは定期的にチェック!」「お客様が座るためのソファをスタッフが使ってはならない!」「壊れたものは素早く修理!」などなど、毎日、口をすっぱくして言っている。その感覚がそのまま、フィットネスセンターに持ち込まれてしまったのだ。ある日電話でまとめてクレームし、最後に「こんなんじゃ、そのうち会員はいなくなりますよ」と言ったら、その日のうちにマネージャーがわざわざ私の職場までやってきて、「イブ、本当に申し訳ございませんでした。そしてたくさんのアドバイスありがとうございました」と言って、ボディスパの招待券を差し出した。しかも、翌週にはほとんどの項目が改善されていた。上出来上出来。
  しかし…。それから数週間後、張り切って出かけたフィットネスセンターの受付カウンターに、誰もいない。いつもわさわさと余分なだけいるスタッフがどうしたのだ? と、あたりを見まわすと、脇の事務所からきゃあきゃあという声が聞こえてくる。もしやと思い、事務所に向かって「スラマッパギィィィーーー」とやや大きな声で叫んだ。すると、「あ、イブ〜、スラマッパギー」という声とともに、出てくるわ出てくるわ、フィットネス担当のインストラクターや、スパ担当のお姉さん、掃除担当のお兄さん、そのほか何の担当かよくわからない従業員などなど…、また仕事をしないでこんなところで…マネージャーに言いつけてやるぞ〜と思いきや、最後に当のマネージャーが顔を出してきて、「あー、イブゥ〜、げんきぃ〜」と、悪びれることもなくニッコリ。悲しいかな、私がしていることは、サウナルームにあるスチーム用の石にバサバサかける水のごとく、蒸発していっているのであった。来年は、クレームより運動に専念することにしよう。
  それではみなさま、良いお年を!   

 
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